人間性心理学をもとにした心理療法 ~来談者中心療法~
アメリカの臨床学者カール・ロジャーズ(1902~1987)
来談者中心療法(1951)は、臨床心理学特にカウンセリングの世界に最も大きな影響を与えた。
[目次]
- 1)来談者中心療法の発見
- 2)基本的な考え方
- 現象学とは何?
- 「自己概念」
- 「自己一致」
- 適応状態と不適応状態
- ロジャーズの考える治療目的とは?
- 来談者中心療法におけるカウンセラーの態度
- カウンセラーの「態度」条件
- カウンセリング体験の本質
1)来談者中心療法の発見
● 精神分析の訓練を受ける
精神分析の人間観:「人間は本能の塊である」
本能は奔放でコントロールが難しい
⇒ 「人間はほうっておいたら大変なことになる。だからほ
うっておかないようにしなければならない」
例えば、
● 児童相談所のカウンセリング
登校拒否、自閉症、発達障害などの子供と母親の指導
● 多動症の子供の母親とのカウンセリング
⇒クライエントは本来問題を知っている。
⇒クライエントは問題をどのように解決して、
これからの人生を真剣に考え、自分の中ではぐくんでいる。
2)基本的な考え方
(A) 実現傾向
● 人間の本質は生物的なもの(有機体)
フロイトの有機体としての人間
⇒ 衝動的、動物的、破壊的傾向
ロジャーズの有機体としての人間
⇒ 自律性への傾向、
成長への傾向、
独立への傾向
「有機体は、自らを維持し実現し強化する方向に向かって行くようにできている。」
⇒ よくなる力が人間には備わっているという人間観
(B) ロジャーズの性格論
● ロジャーズの考え方は基本的に現象学(phenomenology)に立っている。
現象学とは何?
「目で見える世界をどう受け取っているか、
その受けとった世界、我々が意味付けした世界(主観的世界)
こそが我々の世界である」という考え方
⇒ 目で見える世界をどう受け取るか、
その受け取り方が我々の行動の源泉
⇒ 人間の行動は、本人が何を現実と
信じているかによって決まる。
「自己概念」
自分をどう受け取るか(自己概念)によっても
人間の行動の仕方は違う。
例を挙げると、
客観的に美しい女性が、彼氏ができないとぼやくようなことである。
⇒ 人間の行動は、本人が自分のことをどのような人間と思い込んでるかによって決まる。
「自己一致」
健全な人間とは
⇒ 事実の自分に基づいた自己概念をもつ人間
⇒ つまり、「私は気の強い人間だ!」という自己概念を持つ人では?
自己不一致の人
●「自分は気の強い人間だ」(自己概念)
● 人前でパフォーマンスをする前に震えた(体験)
⇒ 自己概念と体験の不一致
⇒ 不適応状態
適応状態と不適応状態
自己理論における治療的人格変化
ロジャーズの考える治療目的とは?
人はなぜ、不一致に陥ってしまうのだろうか?
⇒「ねばならぬ!」にとらわれてしまっているから
「性はよくないものである」
「人は憎むことはよくないことである」
「口答えはよくないことである」
「誰からも愛されなければならない」
これらの価値観に反する感情体験
⇒ 見まい、感じるまい(意識の外へ)
⇒ 実際の自分に絶えず脅かされる
したがって、あるがままの自分を容認してやることが重要!!!
来談者中心療法におけるカウンセラーの態度
(1) この人の前では安心できるし、良い子を演じなくても受け入れてもらえる。
(2) ありのまま自分を受け入れてもらえる。
(3) 私の感じていることを一緒に感じてもらえる。しかも、単に仕事上の義務感からではなく、本心からそしているようだ
⇒ クライエントの実現傾向が活性化し発揮されて、
新たな気づきを生じて建設的な人格変化がもたらされる
カウンセラーの「態度」条件
(1) 無条件の肯定的配慮
⇒ カウンセラーがクライエントを無条件に受容すること。
⇒「人間の尊厳に対する気持ち」に基づく態度
● 人は一人ひとりかけがえのない人生を送っている。
● だれもが自分の人生の主人公である。
このような態度がカウンセラーになかったのなら?
(2) 共感的理解
⇒ クライエントの私的な世界を、
そのニュアンスに至るまで
あたかも自分自身であるかのように感じ取り、
そこで感じ取ったことをていねいに
相手に伝え返していくこと。
(3) 純粋性
⇒ カウンセラーがクライエントとのかかわりに
おいて自分の中で生じてくる「感じ」に
忠実に動いていけること。
カウンセリング体験の本質
⇒ カウンセラーとの受容的・共感的関係の中で、
クライエントは何を体験するのか?
(1)「ひとり」になること
カウンセリングとは、他者からの共感的理解を得て、
そこではじめて本当の意味で「ひとり」に
なることができるという逆説的関係
私たちがひとりで悩むとき
⇒ 内在化された他社の声に支配され縛られて、
がんじがらめになっている
⇒ カウンセラーの存在を通して「ひとり」になれる。
(2) こころのメッセージを聴く
⇒ カウンセラーとの関係の中で「ひとり」
になることができたクライエントは、それに続いて、
自分の「こころのメッセージ」に耳を傾け、
その意味を聞き取っていく。
●「ああ、私はこういうことを感じていたんだ」
●「私はこちらの道に進むべきだったんだ」 など
成功するカウンセリングにおいては、
クライエントが自分のこころの中の「もう一人の自分は」の声に
耳を傾けていくこ自問自答のプロセスが展開されていく。
治療的人格変化
:クライエントが自らの内側で感じることの
できる「もう一人の自分」の声に耳を傾け、
そのメッセージの意味を解明していく
体験的プロセスのこと。